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山鳥坂ダム建設事業の
環境影響評価準備書についての意見書
2007/1/24(水) 
   2000ページにものぼる準備書のうち、鳥類に関する部分について、意見を提出しました。  
提出の期限は、2007年(平成19年)1月29日(月)まで。持参または郵送で受付となっています。
                                                   平成19124

国土交通省四国地方整備局山鳥坂ダム工事事務所調査設計課 御中

                                                                                         泉原 猛

 準備書についての意見書を、下記の通り提出します。

            
準備書についての意見書。

1.準備書の名称  肱川水系山鳥坂ダム建設事業の環境影響評価準備書

2.環境影響評価準備書について環境の保全の見地からの意見

   意見ならびにその理由については、下記第1章、第2章のとおり。

3.提出者の住所・氏名

   上部、冒頭表記のとおり。

4.その他 

 この意見書は、主に「鳥類」に関する部分について述べた。また提出者のホームページ「身近なバードウオッチングと自然の楽しみ」http://home.e-catv.ne.jp/izu/ において公開し多くの方に閲覧してもらうため、平明な叙述に心がけた部分がある。

1章(意見)

 1−1.非常に乱暴な評価が行なわれた、驚くべき内容である。

「評価の結果」が科学的な視点を欠き、あまりに単純でしかも重大な誤りを犯している。膨大なデータと大冊の「準備書」であるにもかかわらず、資料と評価の結果のアンバランスが目立つ。現委託事業者とは異なる別機関による再評価を行う必要性があるのではないか。仮に他の部門においてもこの程度の評価作業であるのならば、山鳥坂ダム建設事業は根幹から欠陥事業となり、将来に大きな禍根を残すものと思われる。

 1−2.ひいては、調査委託業者の選定にあたり、プロポーザル方式を採用しての「随意契約」(後述)に問題があるのではないか、と思わざるを得ない。

 1−3.このような粗雑な結果を公表する、科学的な常識を欠いた調査を長期にわたって担当する受託業者では、選定の根拠とされる「会計法」29条の34項及び、「予算決算及び会計令」第102条の43号(いずれも後述)そのものが、最近問題化しているいわゆる「官製談合」に近い性格をもたらしているのではないかと危惧される。「随意契約」についての検証・検討が必要である。


2章(意見の理由)

 2−1.意見の1−1.で述べた「非常に乱暴な評価」とする根拠は次のとおりである。

「準備書」の表6.1.625 環境保全措置の検討項目での「予測結果の概要」では、取り上げられた「鳥類」の重要な種として選定されているカイツブリからノジコまでの全36種について、予測の結果の記載がほとんどすべて共通のものとなっている。

 要約すると、

(1)「改変区域は本種の生息環境として適さなくなると考えられる」、また「工事区域及びその近傍は本種の生息環境として適さなくなる可能性があると考えられる」。

(2)「しかし、改変区域並びに工事区域及びその近傍の周辺地域には、本種の主要な生息環境が広く分布することから、本種の生息は維持されると考えられる」

(3)「以上のことから、対象事業の実施による本種への影響は小さいと予測される」。

 と、以上の3点が、判で押したように共通である。

 (1)の判断は当然であろう。改変区域ならびに近傍で生息できるはずもない。

 (2)について、「本種」とは何を指すのか。このような不正確な表現が、科学的であるべき調査報告書の中に現れるとは驚きである。

 ある種が、例えばオオタカという「種」が山鳥坂ダムが出来るために「絶滅するか否か」について調査論議し予測評価しているのではない。その地域特産の天然記念物でもない限り、山鳥坂ダム1個によって絶滅することはない。すなわちその種の生息は「他の場所のものが」生き延びているために絶滅しないのである。繰り返すが、「準備書」における評価は、本事業によって事業区域や周辺地域のある種について絶滅するかどうかを論議・評価している性質のものではない。

 (1)で述べているとおり「工事区域のもの」は生息できない、すなわち死滅するわけである。その「個体ないし個体群」こそが問題であり、周辺地域に生息する同種の別の個体にいきなり転嫁して「生息が維持される」と断定するのは、区域内と区域外のものを種名が同じというだけで区別をしないで評価していることである。このような生息場所の異なるものを、あたかも同一のものであるかのごとくとらえるのは、環境調査の基本から完全に逸脱している。

 正しくは、「事業区域ないし影響を受ける周辺域のものは生息できなくなるが、影響を受けない周辺部には別の本種が生息しているため、本種そのものが絶滅することはない」とすべきであろう。

 域内のものから域外のものへの転嫁、いわば「すり替え」が意図して行われたものでないと善意に解釈すれば、調査担当者ないし評価を行った者の生態系についての科学的な知識の欠如を厳しく指摘しなければならない。

 この部分は、この「準備書」の価値の、それこそ「評価」にかかわることである為、鳥類はもちろん野生生物全般の生息条件や生態に関する常識についてここで詳しく述べる必要がある。

 例えば、60年に1回と言われるクマザサなどの開花、結実があると、その年はそれを食餌とするネズミが増える。するとさらにネズミを食餌とするマムシやフクロウなどが増加する。いわば生息条件が好転すれば、そのぎりぎりの上限まで養えるヒナや子孫が増加する。翌年その実がなくなったとすれば、たちまち平年値に減少して行く。野生生物は常にその上限いっぱいのレベルにおいて増減を繰り返しているのである。

 また、それぞれの野生種は、必要最小限の領域、すなわち最小限の縄張り(サンクチュアリ)を確保して生活し家族を養っている。単位面積あたり許される最大限の個体数が生息しているのが常態であり、いわば「空き地」などは存在しない。隣には隣の住人が可能レベル最大限で必要最小限の生活を営んでいるのである。生息条件が好転しない限り、余分の個体を受け容れる余地はない。これは生態学の常識である。ここが駄目になったから同じような環境の隣の区域に移動して暮らそう、というのはヒト(人間)の世界のことであって、野生生物界の論理ではない。

 余談ではあるが、理解を深めるために述べれば、ヒト社会においても、例えばある業界の強者がある地域に営業区域を拡張し進出した場合、そこで営業していた弱小業者は追い出されるか倒産してしまうことになる。このようなたちまち生活の基盤を失ってしまうような現象は、昨今の各種規制緩和政策によってヒト社会が直面している顕著な現実である。規制や調整などのない自然界での野生生物の暮らしは、より厳格にこの作用が働く。ダム事業で住めなくなった個体は、周辺部の類似の環境で生存できます、と主張しているようでは、生態系についての無知もはなはだしい。このような科学的な視点の欠如は、重大な誤りを招く。

 したがって、「個体の存続」を「種の存続」にすり替えている(2)の叙述が、(3)の「本種への影響は小さいと考えられる」という結論に導いている。これがいかに重大な誤りのある「評価」であるかは、先の生態学の常識から見て火を見るより明らかである。まるで子供だましのような結論を、全種に対して下している。

 2−2.この誤謬に加えて、さらに重大な欠陥がある。それは、統計上の手法を無視しているか、あるいは意識的に排除している点にある

「影響は小さい」としている判断の根拠が「周辺部の類似の生息環境ないし生息個体」の存在に依拠しているらしいことは、先の考察で推測できるが、では「小さい、大きい」は、何を元に判断しているのか、定量化の基準がまったく示されていない。

 例えば個人住宅の庭のものであれば影響は小さいのか、ある林野の1林班であればどうなのか。また大洲市全域に与えるものならば大きいのか、あるいは四国全体か、または日本全国を対象としてのものなのか、大きい、小さいの基準がまったくあいまいである。

 このあいまいさは、表6.1.625「環境保全措置の検討項目」の「予測結果の概要」で取り上げた36種について、先に述べたとおり判で押したように同じ表現をとって「影響は小さいと予測される」と述べている点にも関係する。

 一般に、その種に与える影響の大小を判断する場合は、影響を受ける個体数と全体数との比率でもって、統計的に、いわばパーセンテージなどで表現するのが基本である。にもかかわらず36種には、カイツブリとかビンズイなど個体数の少なくないもの、あるいは広範囲に分布するものとオオタカやアカショウビン、サンショウクイなど個体数の少ないもの、生息域の限られているものを同列に扱ってはばからない。

 さらに、コマドリ、コルリ、あるいは石鎚山など一部でしか越夏しないエゾムシクイなどまで、渡りの季節、おそらく4月の初旬から中旬の2週間程度の間に12日しか利用しないものと、オオタカ、ヤイロチョウなどその地域での自然環境に大きく依存している種とをまったく区別していない。植生との関係について多少付け加えて解説しているだけで、「影響は小さいと予測される」と判で押したように同じ判定を下している。

 その種の持つ特性、その地域の特殊性、その相関関係を考察しない「評価」とは、怠慢もはなはだしく、驚くべきずさんな内容というほかない。

 その結果、「準備書」6.1.8.生態系の(5)評価の結果において「その結果、上位性の注目種の生息及び典型的な生息・生育環境は維持され、地域の生態系は維持されると考えられることから、影響は小さいと予測された。」などという、論理性のない、当然ながら説得性のない結論を生み出している。このような乱暴な「評価の結果」を読んでいると、こちらが恥ずかしくなってしまう。

 2−3.クマタカを「上位注目種」から外した、その根拠が依然として明確でない。

「方法書」の段階から「事業区域内にいない」として、ただ営巣木を谷一つ隣に移したことを理由としているのでは、作為的なものを感じるほかない。その理由は以下のとおり。

 表6.1.63の「調査対象とした動物の重要な種」の「鳥類」50種のうち「選定理由b.国内希少野生動植物種」は4種、オオタカ、クマタカ、ハヤブサ、ヤイロチョウである。そのいずれも「c.環境省レッドデータブック」ではTB類またはU類に属する重要種である。

 選定から外す不自然さや非合理性は、次の3点から見て明白である。

1)選定条件の改変から。

 規定していたそれまでの注目種の選定条件の一つ「周年生息しているか」をわざわざ改変削除し、原則冬鳥である(最近は一部残留個体も見られるようになった)オオタカ、夏鳥のサシバに代替した。

2)その出現回数から。

 表6.1.82「上位性(陸域)の注目種の選定」に記載のあるとおり、ダム集水域及びその周辺の区域での確認回数は、オオタカで約1,600回、サシバ約1,400回、クマタカ約1,800回であるにもかかわらず、クマタカだけをわざわざ選定から外した理由が説明されていない。また出現の意味を解析していない。まさか気まぐれに物見遊山に現れているとでも思っているわけではないであろう。

 そのうえ出現回数について、個体数換算を行っていない。データで個体数を把握していながら、比率計算を行わないのはなにゆえか。クマタカのその区域での依存度が異常に高いことが明らかとなるからであろう。

 6.1.8 生態系【上位性及び典型性の観点からの生態系の評価について】でオオタカ、サシバを高次消費者として生態系の評価基準種として援用しながら、同じ高次消費者であり、解析手法が確立しているとしているクマタカを排除しなければならなかったか、合理的な根拠が示されていない。

3)この地域の地形上、植生上の特質から。

 事業区域及び周辺域の地形の特徴として、「河川沿いから急勾配の斜面が立ち上がり、斜面中腹でややゆるやかな勾配となったのち、稜線までが再び急勾配となることがあげられる(3.1.5.3 生態系(1)陸域)」。農耕集落地、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、アカマツ林、水田をパッチ状に含むスギ・ヒノキ植林など多様性に富む特殊性(表6.1.87.)を有しているこの地域の特性は、特に猛禽類にとって生息に適した環境である。

 したがって、サシバが標高約600m以下に5つがい、オオタカが標高約700m以下に3つがいが生息している((1)予測手法【上位性(陸域)】)県内でも密度の高い状態を保っている。同じ猛禽類のやや森林性のクマタカがその上部を利用して、低山や里山の鳥であるオオタカ、サシバとうまく住み分けながら営巣していた事実もうなずける。このような猛禽類の生息に適した地形や植生上の特徴をもつ地域は県下でも数少なくなっている。例えば、クマタカの生息地として知られる新居浜市A地区T地区、久万高原町Y地区などと類似し、その出現回数から生息域としての依存度が非常に高いと判断するのが正当と思われる。にもかかわらず評価の対象から外したのでは、その不合理性がますます明白に浮かび上がってくる。

 2−4.データと解析が一致していない。

 6.1.8.の表6.1.84「オオタカのつがい別の繁殖結果」では6年間で14羽のヒナの巣立ち、表6.1.87「サシバのつがい別の繁殖結果」では3年間で12羽のヒナの巣立ちの確認をしておきながら、予測結果で「影響は小さいと予測される」とは、いったいどのデータでもって何を評価しているのか。これらのヒナたちはどこで育ち、どこで巣立つというのか。

 特にオオタカの県内繁殖については、数年前の今治新都市計画区域内で県内初の繁殖記録がもたらされて以来、いまなお数例の記録しかない。県内全域での観測が綿密に行われていないという側面もあるが、この地域におけるこれだけ多くのオオタカの生息繁殖確認は県内でも初めての記録である。それだけ猛禽類にとって特殊な営巣の条件を満たす優れた地域であり、現にその状況にあることを重視する必要がある。県内で唯一、標高の低い事業区域内でのクマタカの営巣が確認されたことと、まさに符合することを示している。

 2−5.ヤイロチョウについての評価も異常である

 表6.1.64(6)「鳥類の重要な種(ヤイロチョウ)の現地調査の実施状況」で示しているとおり調査の結果、生息状況や巣の位置などを確認しておきながら、表6.1.625「環境保全措置の検討項目(9/21)」において、先に述べた判で押したように他種とまったく同様の「周辺地域に主要な生息環境が広く連続して分布することから、本種の生息は維持される。影響は小さいと予測される」としている。高知県の県鳥でもある本種が、県内でも確認され始めたのはごく最近のことである。また従来、この河辺川地区は本種が観察された県内唯一といってもいい特殊な地域であることは専門家や地元住民のよく知るところである。また地元観察者によれば営巣個体数が急激に増加している事実があり、特に注目すべきは工事区域内かごく至近の地区に集中していることである。この事実を知ってか知らずか、他種とまったく同じ予測評価を下してはばからない。まさに2−1.で述べたように、そこの個体や個体群(そこを営巣場所としているヤイロチョウ)は生息できないが、近くの地域で生きて行けるから本種(ヤイロチョウという鳥そのもの)の生息は維持される、だから影響は小さい、と断定するのである。この論法が正しいのであればトキが絶滅することもなかったであろう。このような評価の手法には、いかなる意図が潜んでいるのかと疑わざるを得ない。

 2−6.ヤマセミ及び下流域に生息する生物についての評価も、低次元のものである

 6.1.8 生態系の(2)予測の結果において、ヤマセミについて「ダム下流河川の水質の変化等による生息環境の変化が想定される」としながら、「生息環境の変化は小さく、狩り場環境が多く残存するほか、新たに出現する貯水池が狩り場として利用されると考えられ」「ヤマセミの生息は維持されると予測されたことから、食物連鎖の下位に位置する生物を含めた地域の生態系も維持されると予測される」としている。

 肱川は、県下ではヤマセミの生息密度の最も高い河川として知られている。山鳥坂ダムの建設によって水質がさらに悪化することは「準備書」も認めているところである。

「環境影響評価方法書」についての意見書でも述べたとおり、鹿野川ダムの水質は、「方法書」3-28にもあるとおり、「水素濃度の環境基準を満たさない検体数」は、358検体中122にも上っているのである。また近年はアオコの発生により被害防止対策に苦慮している現実は、よく知られているところである。

 山鳥坂ダムの建設によって、水質は悪化こそすれ改善されることはない。大洲市長浜の肱川河口までの全流域に生息するヤマセミはいうに及ばず、あらゆる生物に与える影響について、上記のような「予測」で可とする「準備書」の程度の低さは糾弾されなければならない。

 2−7.科学的な報告書の体をなしていない。

 一般に、この種調査報告書には、「○○については不明である」とか「断定できない」「現在のところ明確でない」「定量化できない」「今後の調査を待たなければならない」という文言が含まれるのが普通である。これらのどれ一つ、「鳥類」関係部門では見られなかった。いったいどのような調査が行われたのか、疑問に思うとともに驚愕の念を禁じえない。

 2−8.知事意見に対しても不誠実である。

 表4.11「方法書についての愛媛県知事の意見と事業者の見解(7/8)」で、知事のクマタカなどの営巣木についての注意喚起に対し、「6.1.8生態系」に記述しています、としているが、一般的な植生についての記述があるのみで「営巣木」についての調査結果や予測の評価などは、どこにも見当たらない。市民の代表としての知事意見に対しても都合の悪い部分は無視するという、非常に不誠実なものであると言わざるを得ない。


3章(なぜ、このような「準備書」が生まれたのか?)

 あまりにも粗雑で、事業の巨大さに比べて軽率な内容の「準備書」が出来上がったのか、考察を加えないわけには行かない。

 以下の4点ほどが、原因として考えられる。

1)作成の作業上で準拠している「冊子」を、ただ機械的に援用しているためではないか

 おそらく平成1412月刊行の、「河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する検討委員会」の提言による『河川事業の計画段階における環境影響の分析方法の考え方』(財団法人ダム水源地環境整備センター編集)を全面的に頼っているものと推察される。この冊子は、法的にも実務上も欠点のないよう最低限この程度のものを検討構築すべきですよ、といういわばガイドラインのような全体を包括した基本的な指針である。例えれば、新築の家屋の全体像を示し、家具調度類も運び込まれた状態はこのようなものです、と分析方法のあるべき姿を示しているわけである。

 ところが忠実にこれをモデルとして作成した「準備書」は、ガス、水道、電気などが引き込まれていないことに気づいていない。しかも悪いことには米、野菜、調味料などにあたる調査データそのものは有り余るほどに用意されているのである。

 言い換えれば、この家に住んでいる人がいない、住む人がいないのである。いわば血が通っていない、心が入っていない。受託業者である財団法人ダム水源地環境整備センターが編集した冊子に準拠しているのだから大丈夫だ、という慢心が原因でもあろう。

「方法書」に対して提出された住民や知事意見に対しても、心ある取り組みがなされていない現状は、その不誠実さが目立つばかり、基本姿勢が怠慢に過ぎる。折角の河川局河川環境課長が目指すところの志が生かされていないようである。

2)構造的な欠陥があるのではないか。

 ある種の圧力があって、作成の直接の担当者が真面目に取り組むことを当初からあきらめているのではないか、とも感じられるところがある。それほどに無気力な「評価の結果」の記述である。信念や確信をもった表現とは、とても思えない。

 ある種の圧力とは、上司の指示であったり、事業ありきの前提だったり、いわば官僚的な機構の中で動きが取れなくなっている現状を言う。そうででもなければ、このような破綻した「準備書」が世間に現れるはずもない。あるいはまた、直接の担当者が当初書き上げたものは、おそらくこのようなずさんなものではなかった、と思いたい。大きな組織の、困った「自浄作用」で上部へあがるほどに変質して行ったのではないか、とも推測される。

3)「環境影響検討委員会」が正常に機能していない。

「方法書」の検討の段階から、開催回数、実質的な検討時間などその不十分さは各方面から指摘されてきた。議事録によってみても、明らかに検討不十分の項目ばかりである。ある専門委員は責任の取りようがなかったのであろう、途中辞任をしている。にもかかわらず事務局中心の運用は改められることもなく検討委員会は機能上形骸化したままである。

4)業務委託の形態が「随意契約」であること。

 その問題点については、次章で述べるとおりである。


4章(随意契約の問題点について)

 山鳥坂ダム鳥類調査業務委託を随意契約によることとした理由について、山鳥坂ダム工事事務所のホームページでは、次のように述べている。

(そのページに至るには、工事事務所HPURL http://www.skr.mlit.go.jp/yamatosa/ →サイトマップ →事務所概要 →随意契約結果の公表 →平成○○年度業務 →事務所一覧表(山鳥坂ダム工事事務所)→業務の名称 →山鳥坂ダム鳥類調査業務委託、とたどること。)

「本業務は、所定の成果を得るためには複数年にわたり継続して業務を実施する旨条件を付し、過年度においてプロポーザル方式により契約された業務に係る継続業務である。本業務の履行にあたっては、本業務と一体不可分である過年度業務を履行した者に契約の相手方が特定される。よって会計法29条の3第4項及び、予算決算及び会計令第102条の4第3号により、随意契約を行うものである。」

 ここでいう、プロポーザル方式とは、官公庁など発注者が委託業者などを選定する場合に、当該業務の運営体制、過去の成果、業務に対する考え方の書類を提出させ、選定する方式のことをいい、あらかじめ応募できる者を指定する指名型とそれを行わない公募型とがある。

 今回のものが指名型であるか公募型なのかは定かではないが、おそらく指名型であると思われる。それは上記「会計法29条・・」以下の文面によって類推される。

 その「会計法29条の第4項」は以下のとおりである。

「4 契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。」

 また、「予算決算及び会計令第102条の4第3号」は以下のとおり。

「(指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合の財務大臣への協議)

102条の4 各省各庁の長は、契約担当官等が指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

3.契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。」

 財団法人ダム水源地環境整備センターに委託契約している「山鳥坂ダム環境影響評価に関する検討業務委託」の随意契約によることとした理由には、「このように、環境関連の調査研究に精通しているとともに、調査・評価手法及び環境保全対策についても熟知しており、最新の知見・技術等を導入しながら適切な環境影響評価を行うことが期待できる。加えて、公平、中立な業務遂行に対処できる厳格な服務規律が確保されているため、本業務を円滑かつ的確に遂行できる唯一の業者である。」としているが、実際に鳥類調査業務を行っているのは、孫請けの株式会社四電技術コンサルタントであり、正確な表現とは言えない。

 以上の諸条文から見て、「随意契約」とすることのできる根拠の条文については理解できるが、はたしてそれに該当するものであるかの検証は、第三者が行うのでもなく当の契約者同士の判断となっているようである。したがって必要性・必然性ついて、疑問の残るところである。

「所定の成果を得るためには複数年にわたり継続して業務を実施する旨の条件を付し」としている点からも、その前提そのものが、データや報告書の分量のみが膨大で、第2章で見たように粗雑な評価、科学的で正確公正な次元からはほど遠いもので済ませている原因となっていると考えられる。

 平たく言えば、最近問題となっている特定の業者との「官製談合」に近い結果を招来しているということである。委託業務の成果物としての「準備書」そのものが、雄弁に物語っているといえないか。

「鳥類調査業務」は、高松市に本社を置く「株式会社四電技術コンサルタント」が受託し、この調査業務を含む上部の「環境影響評価に関する検討業務」の委託そのものは、「財団法人ダム水源地環境整備センター」が、これも随意契約によって受けている。

(契約金額はその一部であるが、

   財団法人ダム水源地環境整備センターの平成17年度、9,8175,000円、

                     平成18年度、7,476万円。     

   株式会社四電技術コンサルタントの、 平成17年度、6,7095千円、

                     平成18年度、5,5335千円を含んでいる)

 複数年にわたる、実質競争相手の居ない「随意契約」の方式が、このような乱暴な評価の結論を出したのであろう。実質的な環境保全のための効果をもたらさない、むしろ多くの市民の目から真実を覆い隠すような検証のしにくい「準備書」を生み出した元凶ではないのか。データの膨大な羅列ばかりが目立ち、市民の意見やマスコミなどが指摘している項目についてほとんど反応を示していない。このような実質的で有効性のある評価を行っていない実態は、きつく糾弾されても仕方ないのではないか。

 かつて環境省が、その契約のほとんどを随意契約としていることを指摘され、現在はその多くを公告して入札制度を取るよう改善しているが、国交省も多くの分野で改めるべき時期に来ているのではないか。この「準備書」は、まさにそのことを証明しているものといえよう。

章(結語)

1)「準備書」は、巨額の国税をつぎ込んでいるにもかかわらず、まったく科学的ではない手法と論理で「評価の結果」を出している問題点の多いものである。

2)「鳥類」の部門だけでなく、他部門においても同様の性質のものであるならば、本事業は非常に危険で人命にも関わるほどの、将来に禍根を残す誤った計画であることになる。

3)したがって、別の視点からの、異なった業者による再評価の手続きを行わなければならない。

4)「準備書」の内容ばかりではなく、体裁の面においても、やたら分量を増大させている記載の仕方(例:「鳥類」では同じ内容の評価を、種ごとに一つ一つ並べているなど)ではなく、閲覧者に読みやすく親切なものとするよう心がけるべきである。

5)知事意見に対しての事業者の見解は、別ページでの記述ではなく、そのページの欄内で行うのが礼儀である。スペース上も何ら問題のない量である。

6)「環境影響検討委員会」の力量が問われる。十分な検討時間や手続きがとられない場合は、抗議のための辞任をもって臨むほどの真剣さが、各委員に求められる。

7)平成19年度の調査費だけでも12億円が投じられる。国家財政窮乏の折、このような「準備書」がまかり通っているようでは、ダム工事自体の「いいかげんさ」が浮き彫りになってしまう。

8)付託している国民に対して、より良心的で親切な業者を選定しなければならない。いまや「随意契約」方式を改めるときである。国民にとって何ら益するところがない。

9)調査データそのものにも問題なしとするものではないが、既存のデータを元に第三者機関による早急なる見直しを要求したい。このままでは洪水対策というダム建設工事の目的そのものについて疑問視されるのは必定である。科学的に公明正大な報告がなされるまでは、本事業自体を中止すべきである。

                                   以上
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【参考】「本事業の契約内容」を知るためには、本文中にも書きましたが、次のとおりにページを開いてください。
工事事務所ホームページのURL http://www.skr.mlit.go.jp/yamatosa/ →サイトマップ →事務所概要 →随意契約結果の公表 →平成○○年度業務 →事務所一覧表(山鳥坂ダム工事事務所)→業務の名称 →山鳥坂ダム鳥類調査業務委託、とたどります。
  

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「山鳥坂ダム環境影響評価方法書についての意見書」(2005/10/3)は、こちらから

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