No.3   予期せぬ訪れ  2005/3/5


 最近のヒトの多くは、アポイントメント(予約)を取ったり、綿密な予定表などで行動するのが、ごく普通のこととなった。
 幼稚園児や小学生でさえも厳密なスケジュールで日々過ごしている。
 かつては「松山時間」などと、定刻どおりに始まらないことを揶揄されていたものだが、開始時間が守られない会議などは少なくなったようだ。「定刻にはなっておりませんが、委員のみなさんも揃われましたので始めさせていただきます」と15分も早く開会される場合も見られるようになった。約束どおり時間を守っているかどうか、その組織の健全度を推し量るバロメーターとすることもできるのではないだろうか。

 いっぽう日常生活では、思わぬこと予期せぬことはめったに起こるものではない。ただTV画面などの連日の異常な事態の報道が、庶民の感覚を狂わせていることは事実である。いたって平穏で平凡な毎日の繰り返しでありながら、どこか不安な日々を送らされるのが一般的となった。
 天災や災害にしろ、厳密に言えば「不自然に突然に」起こっていることではない。とは言え、自然界ではヒトにとって予期せぬことは幾らでも起こりうる。珍しい野鳥がいきなり訪れてくれるのもそのうちの一つである。
 我が家の庭に、普通北海道でしか見られないノゴマがやってきたのは1986年の10月9日だった。

 
   夕刻、乏しいストロボでやっと撮影できたもの。

 その日一日、芝生の上などで「尻振りダンス」をして地中の虫などを食べ、予想通り夜には南方へ渡って行った。知人のSさん、Mさん、Aさん宅の庭でも滞在していったことがあるそうである。Sさん宅は私の家と同じ年でもあった。

 昨年の12月29日、中学時代の一年先輩から電話が入った。恩師S先生の急逝の知らせだった。それより3ヶ月前の9月26日、S先生を会長とする「S郷土会」の総会で元気な姿を見たばかりであった。「般若心経」の写経2000巻を達成し3000巻を目指しているところ、との報告があった。12月30日、寒い小雨の中、葬儀が行われた。

 53年ほど前の、四国電気通信学園時代の恩師U先生が2月12日急逝されたと通知が入ったのは、15日のEメールであった。
 ウエブ上で、各地への旅行や見学会、催し物の案内など写真入りの報告を丁寧に送られていた驚くほどの行動力ある先生であった。この日も旅行から帰宅された直後のことであったらしい。
 それより3ケ月あまり前の10月20日は、台風23号が土佐清水市に上陸していた。この日メーリングリストに登録のインターネット愛好会の総会が持たれた。暴風雨のあまりの荒れように早めの解散となった。車で会場を出ようとしたとき、U先生は市内電車に乗るべく玄関を出てこられたところだった。自宅まで送りたいとも思ったが、風雨の強さなどもあって松山市駅まででいいと言われる。バス停から自宅まではすぐそばだということである。帰宅されてすぐ、お礼のメールが入った。
 享年82歳とはいえ突然の訃報に驚きの声と哀悼の意がメーリングリストで流れてきた。親しみ深いその人柄を偲ぶ言葉が多く寄せられた。

 愛媛大学を卒業後、東京の日本野鳥の会本部で活躍のMさんと初めて出会ったのは、30年も前の1975年6月27日、梅雨時の蒸し暑い皿ヶ嶺の山頂三角点であった。互いに野鳥を求めての登山であったため、初対面ながら話が弾んだ。当時彼は愛媛大学に入学したばかりだったと思われる。
 その後、探鳥会で一緒になることが多くなった。その探鳥会で彼は同僚の大学生Eさんと「番行動(つがいこうどう)」を取ることが多くなった。みんなはほほえましく見守っていた。それが実って二人は目出度く「営巣」にこぎつけた。後に元気な「ヒナ」二人にも恵まれた。専門知識を生かして、M夫妻は多くの人たちの世話役や先導役として活躍した。
 やがて東京に移り、その活躍は二人とも全国的に知られることになった。
 Mさんは、真冬でも素足にゴム草履であった。彼の恩師I教授は「春夏秋冬、水陸両用の履物だ」と評された。演習林内に真冬でも寝袋一つで寝泊まりし、調査活動を行っていた特別に元気な学生であった。
 恩師I教授の時はもちろん、その夫人の葬儀にも、多忙な職務の中、東京から駆けつけて中心的な進行役を務めるほどの律儀さがあった。

 1月の19日、突然1通のメールを目にする。Mさんの奥さんEさんからのものである。
「夫、Mが2005年1月18日午後10時12分、膵臓がんのため、永眠いたしました。48歳でした。当日の昼間は、病院の談話室でカモのお話会をするなどして元気にしておりましが、容態が急変し、眠るように息をひきとりました」とあった。

「予期せぬ訪れ」はまた、予期せぬ重いものを突然に運んでくる。

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