No.1 | イタチの踊り | 2005/2/24 |
2月8日付愛媛新聞『四季録』に、石津栄一氏の“「いたち」の話”がある。
うら庭で木刀の素振りを繰り返していると、イタチがさっと横切った。木刀を払ったところ思わずその腹にふれてしまった。また、ある夏の朝、7,8匹のイタチが円陣を組んで集団踊りをしていた。自然解散するまで、夫妻で20分ほど見たことがある、という話である。
このコラムを読んで、十数年前の我が家のイタチとの出会いを思い出した。
家内が玄関横のイヌツゲを剪定していると、イタチが必ず現れた。物置のあたりで「カタカタカタッ」と音がする。初めは何だろうと思っていた。油切れのせいで剪定鋏から「キュッキュッ」とも「シュッシュッ」とも聞こえる音が出る。そのたびに、近くで「カタカタカタッ」と音がするのである。やがて正体が分かった。物置の床下で、イタチが、くるくるくるっと踊りまわっていたのである。
何度も試してみたが、彼または彼女は、剪定鋏の特定の音に、我慢ならぬというふうにカタカタカタッと反応するのである。
石津氏の素振りの木刀の音と剪定鋏の音とが、おそらく同質のものなのだろう。イタチにとってその響きは特別の意味を持っているらしい。私らの場合、円陣になって踊っていたわけではないが、イタチのこの習性は大変興味深いものだった。
数年後、物置を建て替えた。
そのとき床下からビニールの塊が出てきた。そのほとんどがソーセージの包み殻である。直線距離にして100メートルほど離れている小さなスーパーの売価ラベルが貼ってある。消費期限の表示がはっきりと残っていた。およそ1年ほど前の期日、数にして数十個もあった。
物置下のイタチは、スーパーに買い物に、ではなく正確には“いただき”に日々出かけていたらしい。いずれ日付などを整理して調べてみたいと思って取っておいたのだが、いつの間にかどこかにまぎれて見つからなくなってしまった。
その中の数本は、子供たちがチューチューやっているジュースの殻であった。ソーセージのものと大きさ形がほとんど同じである。間違えてしまったのか、それともたまには甘い物が欲しかったのか、これは本人に聞いてみないと分からないことではある。
その何ヶ月か前、スーパーは廃業していた。イタチのせいで閉店に追い込まれたわけではないだろうけれど、その結果、物置イタチは転居せざるを得なくなったのではないだろうか。
剪定鋏の音を家内が鳴らすそばに構えていて、イタチの写真を2枚写すことが出来た。動作が速いものだから、鮮明には捉えられなかった。
石津氏によれば、仙台での会合で、ある大学教授が、「八つ鹿踊り」の原点について講義され、猟師が山奥で八頭の鹿の踊りに出くわし、それをもとに振り付けをして「八つ鹿踊り」の原型となった、と説明されたとある。南予各地に伝わる「八つ鹿踊り」や「七つ鹿踊り」「五つ鹿踊り」などは、伊達藩主によって仙台藩から伝わったものである。
タンチョウの踊りなどはいうまでもなく、野生の生き物たちの「踊り」は、大事な彼らの暮らしの一つなのであろう。
イタチの踊りに出くわす幸運にはまだ巡り合っていないけれども、物置下の住人は楽しい「舞い」を見せてくれたものである。今後も生活の目途が立つようだったら、またどうぞお住まいください、という意味で物置下を出来るだけ快適な状態にして待っている。
1989年9月11日撮影。 中央部に、分かりますか。 丸々と肥えておられまする。 「八つ鹿踊り」については、 こちら「三瀧祭で、八つ鹿踊りなどを見ました」 |